「デジタルえほん」の今とこれから -TOCA BOCA

21世紀を生きるこどもたちのために必要な新しいコミュニケーションや表現を生みだす、こどもたちのための新しい遊びと学びの道具「デジタルえほん」。「デジタルの今とこれから」では、デジタルえほんクリエイターをはじめとした、「デジタルえほん」に関わるおとなたちへのインタビューやレポートを通じて、「デジタルえほん」とこどもたちの今とこれからをご紹介します。今回は、スウェーデンの首都ストックホルムで生まれた最先端の遊びを開発するクリエイティブ集団「Toca Boca(トッカボッカ)」。NPO法人CANVAS理事長、株式会社デジタルえほん代表取締役、石戸奈々子のToca Boca本社訪問レポートをお届けします。


創造・表現する楽しさ

Toca Bocaという会社をご存知でしょうか? 2010年にスウェーデンの首都ストックホルムで生まれた最先端の遊びを開発するクリエイティブ集団です。Toca Bocaが開発したアプリは、すでに1億ダウンロードを達成し、世界で最も高い人気を誇るデジタルえほんの開発会社といっても過言ではありません。

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 私が、Toca Bocaに注目をするきっかけとなったのは、AR技術を活用した*「Helicopter Taxi」というアプリがリリースされた時でした。子どもたちの手の中にあるiPhoneには3Dヘリコプターが表示されます。まるで今いる空間にヘリコプターが飛んでいるよう。子どもたちはその3Dヘリコプターを持って部屋中を走り回り操縦するのです。アプリというより新たなデジタル玩具の登場に、衝撃を受けました。

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©Helicopter Taxi by Toca Boca. Art by Emil Berner.
(*「Helicopter Taxi」は現在、配信停止されています。)



 そして、さらに「Toca Tea Party」の登場にも驚かされました。こちらは名前の通り、お茶会を楽しむアプリ。机に見立てたiPadを、お友だちやぬいぐるみで囲み、カップやドーナッツやクッキーをセット。「いただきま〜す!」みんなで美味しく頂きます。「あっ、お茶をこぼしちゃった!」そんな時も大丈夫。フキンで拭けば机はあっという間にキレイになります。最後はiPadを傾けて洗い桶に入れて、今日のパーティーはおしまい。



 日本でToca Bocaのアプリの人気が高まったのは「Toca Hair Salon」の登場がきっかけだったように思います。お客さんの髪の毛をカットして、カラーリングして、パーマをかけて、お洒落にセットして。子どもだけでなく大人も夢中になるアプリに、たくさんの子どもたちの心が魅了されました。



 Toca Bocaのアプリは、子どもたちの好奇心を刺激し、想像力を育み、 創る楽しさを体験できるアプリばかり。言葉を変えれば、これからの情報化社会を生きる子どもたちに求められる力を育むアプリと言い換えることもできるでしょう。料理をし、洋服をつくり、散髪をし、ロボットをつくり、ペットのお世話をし、科学実験をし、街を探索し、子どもたちは社会の楽しさを知り、そして生きる力を身につけることができるようになっています。

 私は、普段からスマートフォンやタブレットを活用するにあたり
・親子コミュニケーションのツールとして使うこと
・創造・表現ツールとして使うこと
・親子で使い方のルールを守りながら使うこと
・ 外遊び、お絵かき、ねんど遊びなどさまざまな遊び・学びとのバランスをとりながら使うこと
が大切であると考えています。

 Toca Bocaのアプリはコミュニケーションのツールであり、創造・表現のツー
ルであるのです。そして、大人が用意したルールに則って遊ぶのではなく、子どもたち自身が主役になり、自分なりの遊び方を見いだせることもToca Bocaのアプリの素晴らしさでしょう。

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Toca Bocaの世界観

 さて、子どもたちを魅了してやまないこれらアプリをどういう人たちがつくっているのでしょうか?Toca Boca本社を訪ねてきました。
 入るとすぐに広がるのは開放感溢れるクリエイティブな空間。Toca Bocaの世界観そのままのオフィスにて創業者であるエミル・オヴェルマー(Emil Ovemar)さん、デザイナーであるマティルダ・エグマン(Mathilda Engman)さんにお話を伺うことができました。

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左:創業者のエミル・オヴェルマー(Emil Ovemar)さん
右:デザイナーのマティルダ・エグマン(Mathilda Engman)さん



 創業者であるエミルさんは、共同創業者のビョルン・ジェフリー(Björn Jeffery)さんと出版社のR&D部門で働いていた際に、新しい子ども向けデジタルプロダクトの可能性を見出しました。そのヒントをくれたは、当時3歳と8歳だった子どもたちの存在でした。今から5年前のある日、エミルさんの子どもたちは遠隔ビデオサービスを立ち上げて、二人でかくれんぼをしていたそうです。タブレットを介してお互いの顔は見えているのに姿は見えない。「ど〜こだ!」とタブレットを利用して、隠れ、そして探していました。そう、彼らは大人とは違うタブレットの扱い方をしていたのです。彼らにとっては、タブレットは新しいテクノロジーではなく、おもちゃの1つでした。「彼らは、与えられたゲームをするのではなく、テクノロジーを使って、新しい遊びをしたいのだ!」そうして2010年秋、Toca Bocaが誕生します。ゲームではなく、ビデオでもなく、デジタルのおもちゃをつくりだすこと。それこそがToca Bocaが創業から追い続けているビジョンです。

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「子どもたちにとって、いつの時代も遊びはとても貴重なものです。新しいテクノロジーを活用した遊びも、いつかは伝統的な遊びになっていきます。マインクラフトはとてもいい例です。マインクラフトは今の時代の新しい積み木を作り出しました。私たちは伝統として残っていくような新しい遊びをつくりたいのです。」

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 まず取り組んだことは、子どもたちが伝統的な遊びを楽しむ姿を徹底的に観察すること。子どもたちが熱中するおもちゃは、「ロールプレイング」、「創造型遊び」、「探究型遊び」の3つだと気が付き、その3つの分類に基づき、アプリの開発をスタートさせます。まずはプロトタイプをつくり、子どもたちの反応を確認する。子どもたちの反応を観察することは、創業時から大切にし続けている開発のモットー。2011年には10のプロトタイプをつくり、子どもたちに遊んでもらいました。その中から生まれたのが、「Helicopter Taxi」と「Toca Tea Party」なのです。今までに見たことのない新感覚のアプリ。子どもたちはフィジカルなヘリコプターをもって遊ぶ、iPadというテーブルを囲んで友だちと一緒に遊ぶ。アプリというよりもまさにデジタルおもちゃでした。

 初めてのアプリのリリースとあわせて、Toca Bocaは自分たちが提供する3つの価値を定めたと言います。
「ハイクオリティ」。これまでの作品を常に見直し、良いアプリをつくり続け、子どもたちたちを飽きさせない。そして、アプリ内での広告や課金は一切いれず、子どもの安全を確保する。
「ジェンダーニュートラル」。男の子も女の子も別け隔てなく遊べる。そして、言語も説明もなく、どの国でも受け入れられるような世界観をつくる。
「遊び重視」。子ども目線に立ち、遊びに最大限の価値をおく。子どもたちは遊びを通じて世界を知り、たくさんのことを学びます。だからこそ教育的にならず、遊びを重視する。ゲームでもない。故に、ルールもレベルも、あらかじめ決められた結末もありません。子どもたち自身が考えながら遊ぶからこそ、森の中で遊ぶように、無限に遊び続けられるのです。

 主たるターゲットは3〜9歳ですが、この3つを追いかけた結果として10代の子どもたちも楽しんでくれていると言います。これだけ高品質の作品をつくり続ける秘訣を尋ねると、3つの価値を大切にしてより良い作品をつくり続けるということに加え、

1. 常に子どもたちのフィードバックを得ながらつくっていること
2. すばらしいチームを構築していること

の2つを挙げてくれました。

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Toca Bocaファミリー

 私が訪問した時にも、オフィスの共有スペースには、小さなふたりの子どもたちがちょこんと座り、作品と向き合っていました。「あの子たちは誰?」と尋ねると「Toca Bocaのお友だちだよ」という返事。その回答にこそToca Bocaの精神が現れているように感じます。
 これまでに開発に参加をした子どもたちは1500人。様々な年齢と国籍の子どもたちが参加してきました。

「Toca Tea Partyの開発の時には、子どもたちが「お茶をこぼしてもいいはずだ!」と言ったんです。」子どもたちの意見は開発に積極的に取り入れられます。「アプリ内でトイレに物を流せるようにしたのですが、それも子どもたちのアイデアです。」子どもたちは、正しいことだけをやることを好んでいるわけではありません。だからこそ、アプリの中では、実際にやったら怒られるけど、子どもたちがちょっとやってみたくなることもできるようにしているそうです。
 ネットでも「今度はベッドを入れて!」、「今度は学校を舞台にして!」など、子どもたちからたくさんの要望が届きます。アイデアを取り入れるとすぐに「私の意見を聞いてくれてありがとう!嬉しい!」という反応も。「遊びの世界の監督は子どもたち自身である」というのがToca Bocaの考え方。だからこそ、Toca Bocaを触る子どもたちは、遊びながら自分の物語を次々につくりだしていくのです。

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気になるのは、もう1つの秘訣であるそのチームの作り方。
どの制作チームも、6名のメンバーで構成されるのが基本とのこと。

・プレイデザイナー(PD) 1名
・アーティスト2名
・エンジニア2名
・プロジェクトマネージャー 1名

 そこに、アニメーションや音声などを担当するフリーランスの方が入る。チームのリーダーはプレイデザイナーと呼ばれ、遊びをデザインするデザイナーだ。プレイデザイナーは、コンセプトづくり及び子どものユーザビリティテストの責任を負う。しかし、トップダウンで決めることはほぼなく、すべてのメンバーがオープンな関係であると言います。プロジェクトスタート時には顔を合わせてアイデアを出し合いますが、その後はオンラインで議論をしながら進めていく。投稿されたアイデアにコメントを出し合い、最終案を決定する。開発期間の平均は1アプリあたり6ヶ月。

 現在は、6名の制作チームが3本走っているとのこと。これだけの作品を生み出すアーティストやエンジニアをどうやって探してくるのか気にあるところですが、もともとゲームが生活に浸透しているスウェーデンでは、ゲームクリエイターとしてのアーティストやエンジニアは多いといいます。しかし、殆どのゲームが戦いモノ。それに対して、新しい世代のゲームクリエイターたちが、もっとカラフルで明るく、もっと誇れる作品をつくりたいと、Toca Bocaに参画してきたそうです。

 世界中でダウンロード数1位を連発し続けるToca Bocaですが、意識している会社を聞いてみると、「任天堂」と「LEVEL5」、そして「LEGO」という日本人として大変光栄な回答がありました。改めてオフィスを見渡してみると、そこにはドラえもん、パーマン、ペコちゃん、妖怪ウォッチなどなど日本生まれのキャラクターがたくさん飾られています。

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 エミルさんをはじめとしてToca Bocaのメンバーは、日本のビジュアル文化に興味があり、キャラクターや世界観をつくるにあたって影響を受けているといいます。創業時からToca Bocaのデザインを統括するマティルダさんも日本のキャラクターやデザインを意識している一人です。特にキャラクターは「日本だけを参考にしている」と言います。

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5つの決まり

 Toca Bocaの特徴の1つとして、その統一されたデザインと世界観が挙げられます。アプリごとに関わるアーティストが変わり、登場するキャラクターや人物も違います。しかし、全てにToca Bocaらしさが感じられる。そのデザインを指揮しているのがマティルダさんというわけです。マティルダさんは世界観を保つために5つの決まりを設けていると説明してくれました。

1. Everyday(毎日の生活)

子どもたちが毎日の生活の中で触れる環境を大事にするため、壁のしみや割れ目など、細かいことにこだわり、可能な限り本当の生活環境に近づけるようにする。キッチンがちらかっていたり、家具の一部が壊れているといった点も、実にリアルだ。

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2. HUMOR (ユーモア)

 子どもの視点からのユーモアを大事にしている。ちょっとおばかな感じを大切にしている。あるアプリでは、警報がなるとみんな驚くのに庶務のおじさんだけ喜んでいる姿がある。そんなクスッと笑ってしまう要素を盛り込んでいる。

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3. ATTENTION TO DETAILS (細部へのこだわり)

 細部に拘るという点がToca Bocaアーティストの最大の共通点。時計が本物の時間を追って動いている。冷蔵庫のマグネットが過去のアプリのアイコンになっている。お墓の石にチーフのイニシャルが入っている。子どもたちが宝探しのように細部の観察を楽しめるようにしている。秘密の遊びもたくさん盛り込まれているが、これは発見する喜びのためにも内緒。
最後の最後まで細やかにデザインする心意気を大事にしている。

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4.QUIRKINESS (きもかわいい)

 かわった見かけのキャラクターも入れる。ちょっとくらいおかしくてもいい、ちょっとくらい怖くてもいうことを子どもたちに伝えたい。きもかわいいキャラクターは他のアプリの会社との差別化になっている。きもかわいいはヨーロッパでは一般的ではなく、日本にこそその文化があるため、参考にしている。

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5.UNISEX & DIVERSITY

 専門家がユニセックスの観点からチェックするワークショップを必ず行う。肌の色、髪型、年齢、性別。十人十色のキャラクターを用意することで、世界中のすべての子どもが楽しめるということを大切にしている。現在100のキャラクターがあるが、すべての子どもたちがどれかのキャラクターに共感できるようにしている。ヘアサロンアプリでは、子どもたち自身が420万の種類の外見がつくれるようにし、ステレオタイプをつくらないことに注意している。

ジェンダーフリーにするとダウンロード数も増えると言います。Toca Labを例にとると、初期のアプリは、青色や車のガレージなど、色合いやグッズが男の子に寄っていた。しかし、第2弾では修正を加え、ジェンダーフレンドリーにしたところ、女の子のファンも増え、ダウンロードが増えたそうです。1週間のダウンロード数が60万であったというから驚かされます。

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 現在、Toca Bocaの活動は世界に広がり、サンフランシスコやニューヨークにも支社を設けています。プロダクションはすべてストックホルムで担うものの、今後はテレビとの連携、グッズの開発等にも踏み出すそうです。特にグッズ開発に関しては、すでにプロダクト戦略の構築が始まっています。Toca Bocaの世界観でグッズ展開をし、リアルな世界にもってくる。といってもキャラクタービジネスのようなことは考えていないといいます。

「Play things in everything.(すべてのものを遊びにする!)」
 単に製品の上にキャラクターをのせていくようなことには興味がない。グッズ展開の目的は、さらなる「遊び」の追求です。だからこそターゲットはおもちゃではなく、文房具やインテリアやファッション。
「世の中をプレイフルにしたいんです。」

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